
一人ぼっちだった、あの頃
空港に向かうタクシーの中で、私は外の景色を見ながら、アイルランドに来たばかりの頃の自分を回想していた。
2016年9月1日に単身降り立った、ダブリン空港。
入国手続きを済ませて、到着口から
覚悟を持って飛び出したあの日。
出迎えに来た大勢の人たちが、柵に手を掛けたり、プラカードを持っていたりして、誰かとの再会を待ち望んでいるようにみえた。
けど、私には知り合いも、誰もいない。
自ら選んでやって来たとはいえ、
異世界に放り込まれ、一人ぽつんとその場を漂っているように感じられて、
胸の辺りが一瞬、冷たくなった。
あの日は薄っすらと曇っていて、気温の割にはちょっぴり、肌寒かったのもあり
私は着いて早々、焼けるような暑さの、千葉の9月が無性に恋しく思った。
ああ、楽しそうにハグをし合う人たちの姿が眩しい…。
さらに、初めて聞くアイルランド訛りの英語。
数百人の足音、熱気に、会話の声。
それらが渦を成して、私を一気に呑み込んだ。
突如として私を包み込んだ、アイルランド文化圏に戸惑いつつ、
早くも込み上げてきた望郷の念を振り切るようにして、
「ここで怯んでたまるもんか」
そう自分に言い聞かせて、
誰とも目を合わせずに、賑わう出迎え口をそそくさと後にした。
簡単に、引き下がる訳にはいかないから。
せめてもの救いは、大人たちが少年少女のように無邪気で、軽やかな笑顔を浮かべ、目が輝いていることだった。
歩きながらすれ違う大人たちを見ていて、どこか勇気づけられる思いがした。

通過儀礼としてのアイルランド暮らし

留学生活が始まってからも、なんだか上手く人と繋がりきれない自分がいて、もどかしさが抜け切らなかった。
社会人になったらまた別の試練が待ち受けていて
家探しに、人間関係に散々打ちのめされることとなった。
何度も、もう全部放り出して逃げたくなったがその度に、
「逃げるのはまだ早い、立ち向かってクリアすべきお題がまだある」
そう感じて、意地で以って日々闘ってきた。
結果的に10の家で転々と暮らし、仕事では何人かの心なき人たちに精神をすり減らし。
戦闘エネルギーも尽きるほんの寸前で、私はアイルランドを「卒業」することとなったのだ。
様々な感情が渦巻いた、ここでの暮らし。
それがいま、案外あっけなく幕を下ろそうとしている。
空港が見えてきた。
あの頃の私は
想像出来ただろうか。
ここの学校を卒業した勢いで就職し、職場で彼と出会い、ともにオランダへ渡ろうとしていることを。
家を出発してからの道のりは順調で、
たったの20分足らずで、あっという間に着いてしまった。
4年前、私はこの場所にいたんだ。
この国の空の玄関口で、未知なる将来への希望と不安の入り混じった、
あやうい、ステンドグラスのような心を抱えて。
月日の流れが感慨深く、胸が熱くなった。
続く。
シリーズ「オランダ移住劇 2020」次回の第5話は、こちらからどうぞ:
Ep. 5 オランダ移住当日。アイルランド生活最後の日 その5
シリーズ「オランダ移住劇 2020」初回から第3話までは、こちら:
Ep. 1 オランダ移住当日。アイルランド生活最後の日 その1
Ep. 2 オランダ移住当日。アイルランド生活最後の日 その2
Ep. 3 オランダ移住当日。アイルランド生活最後の日 その3
私がアイルランドに渡航した経緯についてはこちらをご覧ください:
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