Ep. 2 オランダ移住当日。アイルランド生活最後の日 その2

タクシーが来るまで、あと15分。
空港に行く時間が、刻々と迫っている。

私は、脇消臭のスプレー缶やらバラバラとした小物類やらを、一気に袋に詰め込んだ後、
ラストスパートでバスルームの床を布巾でかけていた。

出発のタイムリミットが迫りながらも、丁寧に床を磨く。

「この家に住まわせてくれて、温かい寝床を提供してくれてありがとう」と、この空間に感謝の気持ちを込めながら…。

Houses in Lucan, Dublin, Ireland
Lucan, Dublin

バスマットの下まで念入りにお掃除していたとき、彼の携帯が鳴った。
親友が連絡してきたらしい。
「え、今?」
「嬉しいけど、激励を送るのは後にしてくれぇぇ」
と心が叫んだ。

が、事態は少々複雑だった。
聞こえるのは、同居していた顔馴染みの彼の親友(私も友達になった)の声ではない。

女性の声だ。

しかも、英語でもオランダ語でもない。
電話の奥から聞こえてくるのは、フランス語じゃないか!!!?

廊下にいた彼は、フランス語で喋りまくる女性に応対しようと…
…はしていなかった。
あっさり諦め、電話越しに聞こえる声が、どんどん近くに迫ってくる。

「え!私!?」

たしかに私は、フランス語を勉強していた。昔にね。
ほんの1学期のみだったけど。
東京の大学を卒業した後は、ヨーロッパで隣国を旅したいがために、
なまっていたフランス語を少しでも取り戻すべく、多少ブラッシュアップはしていた。

しかし、その後は職場で色々あって、すっかりフランス語を続けるモチベーションは失っていた。

「荷物が…云々かんぬん。」
ぎりぎり、「リュックサックも一緒に持ってるよ」というようなことは伝わってくるけれど、他に言ってることがよく分からない。

ネイティブの早口はなかなかキツイなぁ。
それにタクシーがあと5分で来てしまう。

けれど、私は諦めない。
私には外国語で困ったときの秘策があるのだ。

こういうときは、こっちが話せばいい。
イージー、イージー。ピース・オブ・ケイク。

「今どちらにいるですか?!」






続く。

 

シリーズ「オランダ移住劇 2020」次回の第3話は、こちらからどうぞ:
Ep. 3 オランダ移住当日。アイルランド生活最後の日 その3



シリーズ第1話は、こちら:
Ep. 1 オランダ移住当日。アイルランド生活最後の日 その1

私がアイルランドに渡航した経緯についてはこちらをご覧ください:
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