【オランダの言語景観】アムステルダムで出会った、多言語アナウンスの優しさ

 

多言語は、優しさかもしれない。

 

「移民に寛容」と言われるオランダでは、

オランダ語と英語による二か国語のアナウンスを時折耳にしますが、
多言語案内についての私の体験と、ちょっとした考察をお伝えしていきます。

エッセイ形式で、話題があっち行ったりこっち行ったりしますが、
しばしお付き合いいただければ幸いです。

 

魅惑の多言語パワーに癒される

はじめましての方、ようこそ!
読者の方、おかえりなさい!
通りすがりの方も、WELCOME ☆

 

どうも、美和子です。
タイへの交換留学やアイルランド大学院留学を経て、2020年の夏からオランダに暮らしています。

オランダに来て間もないとき、オランダ語の知識は全くのゼロで
私は何を聞いてもチンプンカンプンでした。
(今も勉強中です、、)

今でこそ、簡単な挨拶であればオランダ語で出来るようになりましたが、
渡航前は語学に関してはなんとかなるだろうと、かなり楽観的でしたので
実際に来て、ふたを開けてみたらなんと。

英語だけじゃ、なんとかなりませんでした。笑

予想していたイメージと、現実とのギャップが私には結構しんどかったです。

 

ちなみに、私のオランダ人パートナー、彼のお父さんお母さんをはじめ近しい人たちとは英語で会話しています。
オランダ語問題が発生するのは、安全地帯の外。笑

諸々の集まりでは、オランダ語のネイティブの方々がものすごい勢いで話していて会話の輪の中に入れなかったり、
(招待してもらっているだけ有難いのですが)

食料を買いに行った先のスーパーのレジで、クーポンか何かの話をされてよくわからず、英語で話しかけたら高校生ぐらいの女の子に返事してもらえなかった、

なんてこともありました。

 

色んなことが積もり積もって、精神的にぐったりしていた私。

あるとき、アムステルダムに行く機会があり、
電車で耳にした音声アナウンスが、少々弱っていた私の心を救ってくれました。

“The next station is Schiphol.”

(次は、スキポール駅でございます。)

 

至ってシンプルなこのフレーズ。

「超」がつくほど基礎的なものかもしれませんが…
オランダ語バージョンに関しては、全くもって耳に入ってきませんでした(泣)

駅名だけは一応聞き取れても、その他の部分はゴニャゴニャ、モソモソ言っているようにしか聞こえず、
このモヤモヤ感が半端ありません。笑

そんなときに、シンプルなこの英語案内というのは
耳にバシッと入ってきたのでした。

 

きっと、相当弱っていたのでしょう。
大袈裟かもしれませんが、
「ああ、外国人の自分も受け入れられてるんだなぁ」と
心にためていた、切ない気持ちが慰められるような思いがしました。

 

たった二か国語、されど二か国語。
「言語の多様性」というものには不思議なパワーが宿っているのかもしれません。

 

言語景観

ところで、大学時代に私は多文化・多言語共生社会について研究していました。
そのせいか、卒業して何年か経つ今でもなお、多言語の「言語景観」には目がないのです。

 

「言語景観」って、きっと耳慣れないという方多くいらっしゃるかと思いますので、(言語オタクの間ではおそらく有名な)定義をご紹介します。

The language of public road signs, advertising billboards, street names, place names, commercial shop signs and public signs on government buildings combines to form the linguistic landscape of a given territory, region or urban agglomeration.

Landry and Bourhis (1997)

 

我流ですが、翻訳してみますと…

 

言語景観とは:
ある特定の領域、地域や、都市圏における道路標識、ビルボード広告、通りの名前、地名、商用の店看板や、政府の建物にあるような公共サインの言葉によって、言語景観は形作られている。

 

ざっくりとまとめるなら、
ある場所に掲げられた言葉の集合体が「言語景観」
と言えるでしょう。

そして、その言葉の集合体というのは
公共の案内やビジネス利用も含めて情報を伝えるものです。

 

Linguistic soundscape、日本語では「言語音(げんごおん)風景」
なんて概念もあったりしますが、
ここでは書き言葉も音声も、全て含めて「言語景観」としています。

 

スキポール空港駅にて。

ついつい、あたりをキョロキョロして多言語掲示板を探したり、音声案内に耳をそば立てたりしてしまう私。

南アムステルダム駅経由ユトレヒト行きの電車を待っているとき、

スキポール空港駅のプラットフォームで驚きの、
多言語のアナウンスが流れてきました。

 

“For security reasons, please don’t leave your luggage unattended.”

(セキュリティー上の理由から、手荷物を置いたままにしないでください)

 

まずオランダ語が聞こえてきて、たしかそれから英語で、
今度は同じ人が続いて、
仏・独語の多言語で案内していました。

つまり、オランダ語、英語、フランス語、そしてドイツ語の
4か国語を流暢に操っている。

 

しかも、それを放送していたのは事前に録音された音声ではなく
その場で駅員さんが話していたのです。

おんなじ駅員さんとは!!

 

もちろん、予め用意された原稿を読んでいる可能性は多分にありますし、
ただ単に、外国人を警戒しているだけかもしれません。笑

さらに、少々うがった見方をするとしたら
わざわざマルチリンガルな方を募集し、駅員さんとして雇っていて、

「国際的なハブ空港としてのスキポール」
を世界中にアピールしているのだろうと推測してしまいますが、、

それにしても、なかなか凄いことでは?!

 

多様な人の行き交うオランダの日常で、
「寛容」を謳うオランダ人の底力を見た思いがしたのでした。

 

公用語はオランダ語ですから、現地語を習得する努力はしていますが、
実際のところはごく一部の天才を除き、そんな簡単に言語が出来るようになるわけでもないと思ってまして、

学生時代に一生懸命勉強した英語でもって
非英語圏にいながら、英語でもなんとか暮らせる瞬間というのは
ちょっぴり嬉しかったりします。
(ちょっぴりというより、めちゃくちゃ嬉しいw)

 

本当に困っているとき、耳慣れた英語で情報を得られたり、思っていることを伝えられたりすると、
リアルにすーごい助かるのです!

 

また、特段困っていなくても、
「セキュリティー上の理由から、手荷物を置いたままにしないでください」
のような、耳にタコができるほど聞いてきたフレーズでさえ、
オランダ語オンリーで来られると、
「ん、何か大事なこと聞きそびれたかな?」と心配性の私は少し、ソワソワしたりします。。

これまでの生活で日本語の次に親しんできた英語で意思疎通ができると、
途端にホッとします。

 

多様性の理想と現実の狭間で思う

「寛容の国」オランダとはいえど、前述したようにオランダ人全員が英語を話せるわけではなく、オランダに来る前と後ではイメージのギャップが大きくて、私はカルチャーショックからなかなか立ち直れませんでした。

だからこそ、少しずつショックから回復しつつある今、
自分とは異質な人、モノや、考え方を受け入れる人々に宿る美しい知性に触れたときに
ありがたみをより強く、感じられるようになりました。

 

オランダ語が全く分からなくて途方に暮れている人も、
言語を学習途上の移住者や旅行者も、
もっと言えば、オランダ語を学ぶ気がゼロの人でも、
「オランダ語が十分に理解できない」という点では、変わりません。

オランダに暮らしていると思うのは、
それはオランダ人にとって外国語である英語もきっと同じで、
英語を話したくない/話せない/学習障害を抱えている/話せるけど恥ずかしい…といった
各々が抱えた諸々の事情を汲んで、全ての人を含めてこそ
真の「多様性」なのかもしれない、ということです。

 

とは言いつつ、私だって人間。

多様性の理想(オランダ人にはこうあってほしい、という自分が描くイメージ)と
現実(本当の意味での多様性、諸々の事情を受け容れること)
の狭間で揺れ動いて苦しかったこともあり、

英語を話そうとしないオランダ人に無視されたように感じて、
「はー?オランダ人のくせに英語喋れないの?プンスカ」
って思ったことだって何度もあります。笑
(英語を話せなくても、少しでも分かり合おうって意思表示してくださる方々はもちろん別です)

 

そんな自分も、そうせざるを得なかったオランダ人もみな許しつつ、
これからも自らの感情と向き合って、人としての優しさや、知性を磨いていきたいと思います~!

  


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私がアイルランドに渡航した経緯についてはこちらをご覧ください:
About – MiwaKosmic | 異文化は癒しだ
プロローグ – MiwaKosmic | 異文化は癒しだ

2020年夏、私とパートナーはアイルランドから彼の故郷オランダへと、
数々の困難を乗り越えて移住を果たしました。
シリーズ『オランダ移住劇2020』では、その一部始終をえがいています:
Ep. 1 オランダ移住当日。アイルランド生活最後の日 その1

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国際的な暮らし方に付随する課題や心の葛藤も包み隠さず、記事にしています^^
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